大判例

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松江家庭裁判所 昭和46年(家イ)133号 審判

〔主文〕相手方が申立人の嫡出子であることを否認する。

〔理由〕申立人の申立の実情は

一、相手方は、申立人と相手方親権者母文代の婚姻中昭和四五年三月二日その長男として出生したので、その頃その旨届出を了した。

二、ところが、その後昭和四六年一月相手方が大病に罹り生命に危険を生じたため、輸血することになつた際、相手方の血液型がA型であり、父(B型)、母(O型)の血液型よりすれば両者の子としては医学上出生し得ないことが始めて判明した。

三、そこで申立人は妻文代を詰問したところ、同女は申立人と同棲中申立人方に同居していた同人の弟、晃と肉体関係があり、相手方は右晃と文代との間に生れた子であることを告白した。

四、以上の如く相手方は医学上の見地からも、また相手方の母親の自供によるも、申立人の子ではないことが明らかであるから、相手方が申立人の嫡出子であることの否認を求めるため本申立におよぶ。なお申立人と相手方親権者母文代とはこのことを原因として昭和四六年七月二六日協議離婚をしている。と言うにある。

そこで本申立の当否につき検討するに、<証拠略>によれば、本件申立の事情は大体是認できる。すなわち申立人と相手方の母中路文代は、昭和四四年一月頃より事実上の夫婦関係を生じ、申立人方に同居し、その後同年六月五日婚姻届をして法律上正式に夫婦となつたものであるところ、その間昭和四五年三月二日二人の間に長男として相手方が出生した。両親はこの子が自分らの子に相違ないものとして愛育していたところ、はからずも昭和四六年一月相手方が急性肺炎に冒され生命に危険を生ずるに至つたところから、医師の勧めにより両親の血液を輸血することになつた。そこで相手方および両親の血液型を検査したところ、相手方の血液型はA型であり、父である申立人の血液型はB型に属し、母文代のそれはO型であることが医師において確認されたので、医師が父である自己の血液を輸血しようとしないことに不審をいだいていた申立人には事情を秘したまま、とも角母文代の血液のみを相手方に輸血した。やがて相手方の病状が小康を得たので、上記の事情から申立人は他の医院において自己の血液型がB型であることを確め、さらに相手方およびその母文代の血液型を知り、これによると申立人と文代の間には相手方が出生する筈がないことを知らされたので、始めて事の真相につき文代を詰問したところ、ここに至つて同女は申立人と同棲中、同人方に同居していた申立人の実弟相川晃と肉体関係があつたので、相手方は上記晃と文代との間に出生した子に相違ない旨告白した。そして申立人夫婦はこのことを原因に遂に昭和四六年七月二六日協議離婚した一連の事実、並びに現在の医学上の定説によれば、血液型がB型の者とO型の者との間には絶体に血液型A型の子供は出生し得ない事実が認められ、因みに文代と肉体関係のあつた相川晃の血液型はA型であるらしいことも認め得られる。そうだとすると、相手方は申立人と中路文代と婚姻中にその長男として出生したことにはなつていても、それは事実に相違するものであり少なくとも申立人の子供ではないものと断定せざるを得ず、その嫡出子たることの否認を求めることは一応もつともということができる。

ところろで、民法七七七条によれば、嫡出子否認の訴は夫が子の出生を知つたときから一年以内に提起しなければならないことになつており、この趣旨よりすれば本調停の申立は、相手方の出生(その届出は申立人がしているから、届出の日には遅くとも申立人は相手方の出生を知つていたというべきである)を知つてから一年以上を経過した昭和四六年八月二三日に受付けられているから、一応不適法というべきが如くである。

しかし上記民法の法条の趣意は、その文体に拘らず夫が否認の原因を知つたときからと解するのが妥当であつて、またかように解して些かの不都合もなく、寧ろ重大なる過失なくして自己の子と信じていた夫を救済するの途は斯く解するより外にはなかるべく、本件の如きは正にその適例であり、偶々自己の子でないことを偶然に知つた(知らざりしことに何等の過失は認められない)時は既に出生のときより一年以上を経過しているが故に遅かりしとのことでは、自分の子でないことを知りながら、いついつまでも嫡出子として養育せざるを得ない結果となり、人道上は勿論、法律上も余りにも酷というべく、恐らくは上記民法七七七条の法意ではあるまい。そこで当裁判所は、民法七七七条の出訴期間は夫に嫡出子でないことを知らなかつたことについて故意または重大な過失がない限り(本件はいずれも消極であること前述のとおり)、夫が否認の原因を知つたときより一年と解すべきものと考える。

そうだとすれば、申立人の本件調停申立は相手方が自己の子でないことに疑いをはさんだ早くとも昭和四六年一月以降一年以内になされていることが記録上明らかであるから、結局本件調停の申立は適法というべく、また相手方が申立人の嫡出子でないと認むべきこと既に上記縷述の如くであるから、上記調停の合意を正当と認め家事審判法二三条一、二項に則り主文のとおり審判する。

(牛尾守三)

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